窮屈な天国・日本 #12019/01/14 11:56

from 『現代 1997年8月』

    異色対論 「窮屈な天国・日本」はどこへ行く

    官僚支配と少子化が招く悲劇

    堺屋太一 & 池澤夏樹


>居心地の悪い日本

池)日本という国のあり方について、みんななにか違う、どこか
  おかしいと感じている。・・・自分の体験に重ねて言いますと、
  ぼくという人間はどうも日本という国と折り合いが大変に悪
  い。昔から居心地が悪くて、なんとかこの日本の空気から逃
  げ出したい。海外に行ってしまうというような単純なことでは
  なく、日本人として生きていながら、なおかつ、この日本的な
  束縛の一歩外へ出たいという気持ちが強くて、いろいろもが
  きましてね、・・・今でいうフリーターでかつかつ食べてきて、
  その途中で海外にも出てみた。たとえばギリシャに三年暮ら
  しましたが、そこでは非常に気が楽だったんです。解放感が
  ある。暮らしが楽しい。・・・暮らしの質がまるで違うんですね。
  そしてまた日本へ戻ると居心地が悪い。締め付けが厳しくて、
  一種ノイローゼ状態になる。・・・そのうちに沖縄に通い始め
  るんですが、ここでギリシャにいたときと似たような解放感を
  おぼえて、年に七回、八回、九回と通うようになった。それで
  ・・・東京はたたんで、・・・その沖縄からあらためて日本の
  窮屈さは何だっかを考える・・・

  (三年半経って)ようやく分かってきたんです。なぜ沖縄は
  居心地がいいのか。あそこは、日本的な原理がついに及ば
  なかった土地です。明治以降近代の官僚支配とそれに追従
  するやり方が届かなかった。・・・日本でありながら日本でな
  いというこの二重性が、ぼくにとっては大変居心地がいい。

  官が主導して民がついていく機構とか、それによって表面的
  な平等の原理ばかりが前へ前へ出てくるとか、嫉妬を正義
  とする倫理観が全体を支配するとか、堺屋さんがさまざまに
  論じていらっしゃる日本の原理から、沖縄は不思議と自由
  なんですね。・・・自動車の運転・・・沖縄人の運転は実にい
  い加減で、勝手でマナーが悪い。赤信号でも右見て左見て
  スーッと出てくる・・・ところが、統計によれば沖縄県の事故
  率は全国最低なんです。お互いにそういう運転をすることを
  了解の上でやっている。信号があっても自分で判断した上
  で動いている。ルールと自分の判断との関係がうまくいって
  いるわけです。

堺)・・・沖縄県に行くとアジア的な雰囲気がある。・・・日本人も
  戦国時代までは非常に伸びやかな、自由な個性を発揮した
  競争社会を形成していた。ところが、江戸時代、とくに亨保
  いごになってかなり束縛の多い社会をつくった。それが明治
  の近代化で、日本の伝統よりもヨーロッパ近代文明のほうが
  進んでいると・・・近代化の規制をかけた・・・規格大量生産
  を完成させようという官僚・軍人の圧力が優勢になってきた。
  それが完成しのは1941(昭和16)年・・・しかし、実際には戦
  争があってその政策が本格的には遂行できなかった。それ
  が戦後になって1995年体制の中で官僚支配は復活し、かつ
  非常に強化された。この過程で、窮屈な日本ができあがった。

  ただ、日本人自身もまた、その窮屈な中に入りたがったいう
  ことも事実だ思うんです。所得は高いし失業率は低いし、あ
  らゆる点で今の日本は天国なんです。官僚たちの目指した
  天国は1980年ぐらいにほぼ実現しています。

  「天国」ができてみると、そこに住んでいる者は不幸になって
  いた。・・・(オレたちは天国にいるという意識を持つと)日本
  的なやり方が最も優れていて、アメリカもヨーロッパも間違っ
  ている、アジアも間違っている、みんな日本式官民協調体制
  をとれ、と言い出した。だから世界から嫌われる。
  同時に、天国から落ちないためには、みんないい子にならな
  きゃいけない。ちょっとでも悪い子になるとすぐ地獄に落とされ
  るという恐怖感に苛まれ、全員が天国の雲の端にぶら下がっ
  ているような状態になる。そいういう社会ができたんですね。

  幸いにして沖縄県は、それほど天国にならなかった(笑)。

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