若き友の初産2006/06/02 20:57


清らなる玉のをんなごかき抱く
姿を想へばはらはらうれし

『ハイコンセプト』2006/06/11 19:17

大前研一訳『ハイ・コンセプト』

  (原題;Pink,D.H., A Whole New Mind)

21世紀の格差社会に生きて行くための教則本であった。

先ずやってはいけないことが明示される。
①よその国にできること
②コンピューターやロボットにできること
③反復性のあること
の三つである。
ここには、弁護士、会計士、教師などの知的労働者がやって
いた反復性のある仕事も含まれている。

したがって、反復性のないこと、困難を突破することに立ち向
かうのがこれからの時代の要請となる。その時に右脳を使え
と勧められる。ここで注意しなければならないことは、「右脳か
らアイデア」プラス「左脳で評価」の両建てであることである。
そうして、創造、調和、共感という感性を磨くことに努力せよと、
続けられる。

既存のアイデアを新しいやり方で組み立て直し、従来の境界
線を超えて行く創造性は、自分の全く知らない分野に踏み込
んでそれを発揮する機会を捉えよ、と説かれる。このときに、
調和、それは関連性を一体化させるものであるが、のある組
合せが最も重要な要素なのである。
新しいことを発明・発見するだけでも大変なことであるが、それ
を説明し、共感を得ることに繋がらなければ価値を生み出すこ
とはない。それには、巧みな比喩の行使あるいは詩人マネー
ジャーによる世界の説明が必要だといわれる。サービスを使う
人の立場に立って考え、中性的に感じ、共感を語って行けなけ
ればならないのである。

自反(26)2006/06/13 20:56


知るべきはここで踏ん張るそのときぞ
そのかんどころ強くあれよと

『千人針』2006/06/15 06:07

森 南海子『千人針』(情報センター出版局)

著者は、小学生のときに乞われるままに、街頭で駅頭でさらには
教室で千人針の一針を刺しました。それは何ら心のこもらぬ、い
わば流れ作業の一工程であったと悔やみます。

    ただ単に針のまわりにくるくる糸を巻きつけたあと針
   を抜き、手早く片づけてしまうことしか考えませんでし
   た。・・・幼すぎた私が、うわの空でほとんど日常的な
   習慣のようにして刺した千人針が、いま私に何かを語ろ
   うとしていることに対して、私がどんなにやりきれなく
   感じているか、そして、そのやりきれなさとは何なのか。

ここから、著者の千人針採集の旅が始まります。千人針の縫い
目に織り込められた、贈った人と贈られた人の、その後の人生
に向き合ってしまうというやるせない旅でした。その縫い目に
込められた願いを、その針目を受け取った者たちが歩んだ道の
りは遠いものでした。
   
別れは戦地に赴く、千人針を受け取った男のほうにあったのが
普通でしたが、逆であった一枚も紹介されています。

    ”別れ”がここに縫いこめられているのです。それは、
   息子が母に別れを告げるのではなく、軍を志願して去り
   ゆく息子に母のほうから別れの言葉をここに埋めこまれ
   たのだと、・・・女としての、母としての無念さ、やり
   直しのきかぬ人生というものの酷さを、ここに針目とい
   う秩序あるものを通して語りつくそうキッと口を固く閉
   じ、背を伸ばし、息をととのえてこの一枚を仕上げられ
   たのだと思います。

幼き子を連れての離婚から再婚、そして再々婚は何かを捨てて
生きて行く厳しい道であったに違いありません。にもかかわら
ず、息子は自分から離れて行こうとするのです。
しかし、縁というしかない不思議さで、シベリア抑留の苦しい
長旅の間、その千人針はいささかも崩れることなく、彼と共に
ありました。千人針は立派に役目を果たし、帰還したのです。
けれども、その報告は墓前でのものとなりました。

    それは器用な針目というよりは丹念な一針一針であり、
   そこに燃えるおもいが縫いこめられようとしていたので
   はないでしょうか。

千人針は男の生還を待つ女の誓いでした、と著者は嘆じます。
生還を念じる針目は別れを縫いこみ、完成は喜びから最も遠い
ところにありました、と嘆きます。

    千人針――縫ってはならぬ一針一針であったのです。

ヘルスケア&アンチエイジング 20062006/06/17 15:48

―高齢者介護・介護予防から老化予防まで―

 ヘルスケア&アンチエイジング 2006

(主催  日経BP社)
(会場  サンシャインシティ文化会館)池袋

ビジネスに直結したプロ向けのイベントということでしたが、テー
マ・パーク感覚で回って来ました。

『高気圧・高濃度酸素カプセル』Medical O2:

酸素不足を解消するには、末梢組織にまで張り巡らされた毛細血管の
すみずみにまで酸素を届けるには、赤血球によって運ばれる酸素に加
えて、溶存酸素が重要だそうです。それゆえ、高気圧で高濃度の酸素
を吸うための酸素カプセルが開発されました。ストレスからのリフレッ
シュに効くとのことで、体験してみました。通常は30分間を要すると
ころを、10分ほどでしたが、足の指先に血液が行き渡ったがごとくに
ポカポカしてきました。酸素濃度は企業秘密ということでしたが、カ
プセル内では表示されていました。

脳年齢計 ATMT:

脳年齢と脳ストレス度を測定します、ということで挑戦してみました。
脳年齢は怖かったので、ストレス度を測ってみました。「1-あ-2-い
-3-う-・・・」のように数字とひらがなを交互に押して行きます。
画面上にランダムに出現するので、探すことがストレスにつながるの
でしょう。そこで、このストレスを克服しての頭の回転度を測るとい
うことです。この日のストレス度は適度な緊張感をもたらし作業効率
を上げるというところでした。

動脈硬化検査装置 VaSeRa VS-1000:

血管の硬さと詰まりの程度を5分で測定できます。その測定原理は、
硬いものほど早く伝わることです。パルスを加えて、その到達する
スピードで硬化度を判定しています。年齢相応の結果でした。
詰まりのほうはよく分かりませんでしたが、正常範囲内に収まって
いました。

あとは、JOBAというフィットネス機器に乗りました。座るだけで、
体幹筋力がアップするという乗馬療法が売り物の機器でした。

展示された商品はまだまだ多数ありましたが、次の予定が控えていま
したので会場を後にしました。

『きもの』2006/06/18 14:55

幸田 文『きもの』

少女が結婚するまでの人生を、着物を通して語った物語。
女性にとっての着物はまさに人生そのものだ、ということがよく
分かる。

 「白一色に装ったるつ子は、雪のようにふんわりと花嫁の座にいた。
  ・・・然し、披露になるとるつ子は自分から、紅刷毛をとって頬
  にもこめかみにも、色を加えた。角かくしを取り去って、赤い疋
  田の色直しに着換えたるつ子は、引き立ってみえた。・・・
 「二人は旅行に発っていった。・・・保二は酔ったのか、お父さん
  も機嫌よかったじゃないか、と繰り返した。それがるつ子を喜ば
  せていると勘違えして、逆にるつ子をちくちく刺しているとは、
  毛ほども思い及ばなかったらしい。」

るつ子は、父親をはじめとする家族の反対を押し切るように結婚を決
意する。ここにいたる彼女を着物で描いて行く。

 「引き千切られた片袖まんなかに置かれ、祖母と母とるつ子が三角
  形にすわっていた。・・・今朝、学校へいく前に、着たままで、
  右手で左袖を力任せに千切って、屑かごへ突っ込んでおいたのが、
  早くももう見つけられ・・・
 「・・・綿入れの筒袖胴着は肩のところがはばったくて嫌なのだ、
  といっても大人たちにはそれがわからないらしく、そんなことはな
  いと不承知だった。」

母とるつ子は、相性があまりよくなく、いつもその間を取り持つのが
祖母であった。

 「母さんはね、雪国の人だもので、綿をたくさん入れちまうのさ。
  ・・・だからさ、あんなにおこられたけど、おまえ母さんに文
  句いったりしちゃいけないよ。」

るつ子は三人姉妹の末っ子でそれに兄がいる。長姉は十分な身支度で嫁に行き、着物を着換えるごとくに他家の人となった。

 「・・・それにしてもあちらのご紋のついたものを着てねえ、もう
  すっかりあちらの人になってしまった。」

次の姉の縁談は、母が長患いで伏せっているときであった。相手が
商人の息子ということで、最小限の準備で、つまりは「すべて体裁
めいたことは省いて」、その分を現金での持参と決めた。

 「いくら当人たちが式は質素にというにせよ、あまりに手軽にすぎ
  て、結婚のはなやぎも美しさもなさすぎる。・・・上の姉の半分
  もかまってやらないのはどうしたことなのか疑う。みつ子も家を
  離れていくというのに、名残惜しがらず、親もまた二人目の娘を
  手放すというのに、割に淡白にみえるのが、・・・」

それから、母の葬儀、関東大震災、とその時々の着物で語られて行く。

 「あなたその着物、どうしたの。」
 「どうって、おばあさんがこしらえてくれたのよ。」
 「・・・るつちゃんが紋服着るのに、姉のあたし(注、二番目の姉)
  がお通夜と同じ洋服っていうんじゃ、恥かくじゃないのよ。・・・」

 「その着物、うまいことねだったわね。看病のご褒美というわけ?
  あなた色白だから、紫は憎らしいほど映えるわ。でも、なぜ貼紋
  なんかにしたの、下司っぽいわ。」

母亡き後、祖母がるつ子の縁談を心配する。

 「・・・少し考えてみるのもいいと思うよ。自分がどんな気性かをね。
  たとえばだね、おまえさんはよく我慢するよ。お母さんの看病やお
  葬式にしろ、・・・我慢して、実際にやりとげてしまう。これはお
  姉さんたちではできないことだ。みんながほめている。でもあたし
  はそこが、たまらなく可哀想で、そして心配なんだがね。我慢も、
  出来るうちこそ値打があるけれど、出来ない我慢もあるものさ、そう
  なれば破裂して、悪名だけ残る。お姉さんたちははじめから我慢な
  んか嫌いな性分だから、破裂する心配はいらないやね。」

父親は家族会議で反対を表明して、次のように語る。

 「わたしは、るつ子にはそぐわない人だと、みている。それは細かく
  るつ子にも話しておいた。然し、るつ子がそれでもというなら――
  惜しいが仕方がない。もう止めようとはしないし、世間並みの仕度
  をしておくりだしてやり、仕合わせをねがうだけだ。」

物語は、着物を他人により外されるシーンで幕となる。

 「どんな言い方をされたにしても、それはまだ処女でいる妻には胸が
  さわぐ。思いもうけた刺戟、期待した刺激だった。・・・間もなく裸の
  胸が相手の裸の胸を感じ、下着のずるずるはがされる感覚を知っ
  た。自分の手でなく、人の手がはがす下着が、腰をきしっておりて
  いった。それが恙なく進行している結婚の行事であった。」