人生の結末も一人2018/01/03 20:41


生きることも難しいが、死ぬことはなお難しい。生きるための努力は
報いられるが、死については人間の努力のかなわぬ部分のほうが
多いからだ。

私は・・・できることなら癌で死にたいと希望している。・・・

(主治医)「一親等のない人は(告知しても)動揺が少ないですね」
独り者の特権は、死を迎えて動揺が少ないことであろう。人生に対
する義理と執着が少ない。

死後の問題として気がかりなことといえば、わずかばかりの財産だ
けかもしれない。独り者にとって、財産とは生きているときの何より
の支えであり、死んだ瞬間から一切無意味になる妙な代物なので
ある。困るのは“その日”の見当がつかないことだ。わたしが癌で
死にたいと願うのは、”その日”についておよその予測がたつだろ
うと思うからだ。

こういう言い方は、癌で闘病中の方や肉親を亡くされた方に不遜
なひびきとして伝わるだろうと心痛むが、独りで人生の結末をつけ
ねばならぬ立場から、・・・あと三カ月と告知されたらそのように、
あと一年といわれたらそのように、私としては残された期間内に
できるだけの始末をつけて周囲に迷惑をかけたくないと思ってい
る。

(上坂冬子)