「生前整理」には覚悟がいる2018/01/04 08:35

  by 田中優子

生前整理を最初に行ったのは49歳の時だった。
首にできた腫れ物・・・大きな病院での精密検査を勧められた
・・・これがただの検査ではない。腫れ物を取り出して細胞検査
をしないと分からない・・・
そこで私は手術の前に、生前整理を行ったのである。大学から
借りている図書類は全て返却し、研究費を支給されている研究
途上の報告書は後を頼み、持ち物やデータは精査して断捨離
し、万が一の場合の仕事の連絡先一覧を作り、必要なデータに
アクセスする方法を告げ、そして遺言も書いた。

これらの作業をしている間に考えたのは、生き残る人が困らない
ように、という一点のみであった。
これをきっかけに、弁護士の友人に遺言を預けるようになり、
・・・書き換えが必要な状況なら、自筆で書いてともかく投函する
ようになった。生前整理が日常化されたのである。

次に生前整理が必要になったのは、62歳で総長(法政大学)に
就任した時だった。総長という職務は・・・身を呈して公共に尽く
す職務である。・・・健康でなくては健全な判断はできないが、
だからといって体調や気分や都合や快不快で行動を選んでは
ならない。自分のことは脇に置き、総長業務用の便益を必要最
小限とどめる。無理は当たり前。その結果急逝しても仕方がな
い。小さな例で言えば、総長室に入ったとき研究室に入ったとき
研究室を空けた。・・・空けるためには本や資料を処分しなけれ
ばならない。自宅にいられる時間も少ないので移しても意味が
ないが、移動時間がおおくなり、移動途中のインターネット環境
で使う必要がある。そこで、(本と資料は)「処分」「デジタル化」
「自宅据置」に分類し、研究の断捨離を始めた・・・これは一種の
生前整理である。

・・・急死したときに迷惑にならないよう、遺言を更新しエンディン
グノートも作った。・・・ひとりの人間が世の中から完全に消える
までには厄介な手続があるが、その手間を省いて邪魔しない
ようにしたいのだ。
書籍の生前整理が最も難しかったが、それは残りの生涯で何
を大切にするかを見つめる良い機会となった。・・・本当に必要
なことだけを行っていく・・・