平和が戦争につながるー北朝鮮論 #12019/08/24 15:27

  from 『戦争にチャンスを与えよ』(エドワード・ルトワック著)
      文春新書(2017年)

>戦略は Paradoxical Logic によって動かされている。

 ※ 紛争時に働くロジックのことで、戦争は平和に、平和は戦争
    に向かって動く。

 また、すべての軍事行動はソコを越えると失敗する Culminating
Point (限界点)があり、いかなる勝利も、過剰拡大によって敗北
 に繋がる。

>「大国は小国を潰せない」

 西欧には、独、仏などの大国同士がひしめき合っている。そうした
 パワーのぶつかり合いの中で、ベルギー、オランダ、デンマークと
 いった小国も生き残っている。
 何故それが可能だったのであろうか?
 大国は中規模国は打倒でるが、小国は打倒できない。小国は常
 に同盟国を持っているからだ。小国は誰にも脅威を与えないから、
 別の大国がテを差し伸べるのである。

 小国のベトナムは、大国のベトナムを打負かした。小国ゆえに
 ソ連と中国の支援を獲得できた。当時、ソ・中は対立していたの
 だが、それでも互いに協力してベトナムを助けた。

>戦略のP.L.は、紛争が発生するところで必ず発動するので、
 一般常識では図れない「戦略の世界」が現れる。

 戦略の世界では、成果を積み重ねることができない・・・戦争に
 直面して戦略を考える時に、最初にやるべきことは、「常識を窓
 から投げ捨てる」ことだ。
 次に、戦略の世界では、矛盾や逆説だけが効果を発揮すると
 いうことで、容易に理解できる Linear Logic は常に失敗するこ
 とになる。だから、歴史には犯罪や狂気が満ち溢れ、教訓は生
 かされない。

>勝利が敗北に繋がり、
 敗北が勝利に繋がる。
 戦略の世界では、すべてが常に移り変わる。

 ナポレオンは戦場で強かったので、勝利を収めながら前進して
 行った。ところが前進しすぎて、結局敗北してしまった。限界点
 を越えて前進したところで負けが決まった。
 
 第4次中東戦争の本質は、イスラエルが奇襲を受けたにも拘ら
 ず、勝利できた理由は、Balance of Power がイスラエル側に有
 利に傾いていたからである。

>P.L. を理解することの難しさは、人間としての感覚そのものに
 原因がある。

 もし普通の人間としての感情を持っていれば、あなたはそれ自
 体で間違っているということだ。戦略論において、常識は敵であ
 り、通常の人間感覚は敵である。
 唯一の味方は、紛争の冷酷な Logic である。

 独はどこで何を間違えたのか?

 19世紀から20世紀へと変わる頃、独は圧倒的な成功を収めた。
 ところが、1920年の敗戦で、国土が荒廃して貧困にあえぐ国と
 なった。
 独は最高の大学、最高の企業、最高の銀行だけでなく、領土ま
 で欲した。とりわけ太平洋の西側にあるキリバスやバヌアツなど
 の島々を求めて、大規模な艦隊が必要だと考えた。まさに現代
 の中国と同様、たいした勝ちの無い、小さな島を手に入れるた
 めに空母を建造して、かえって世界を敵に回して・・・

 独の艦隊建造に対して英はどのように対処したか。
 「帝国的な独を破壊すべきだ」と決断した。
 具体的には、
 (イ)野蛮で厄介な米を「絶対に離さない」。何があっても、英米
 同盟関係は解消しないと決心した。それが、Discipline だ。
 (ロ)対仏関係改善・・・100年以上、争った相手で、当時もアフリ
 カ、インドシナなどで係争していた。ところが、すべての案件で
 譲歩して、交渉ですべてを解決した。これによって、英・仏協力
 関係が構築された。
 (ハ)いやいやながらも露と組んだ。その交渉では譲歩に譲歩
 を重ねた。英外務所は、屈辱に耐えた。
 
 1914年に対独戦争が始まると、独には最高の陸軍があって、
 人類史を塗り替える重要な技術や兵器を幾つも発明したけれ
 ども、それでも独は勝てなかった。それは、独が三つの世界帝
 国(英・仏・露)を敵に回したからである。すべての戦闘・すべて
 の戦域で勝利しても、石油や食料などの物資輸入が海上封鎖
 で途絶えれば、戦争には勝てない。

 一方、英が最終的に勝利できたのは、「戦略」を冷酷な視点で
 捉えることができたからである。
 要は、同盟関係は、自国の軍事力より重要なのだ。もちろん、
 自国軍の力で戦闘に勝利することは、同盟関係獲得の範囲
 や可能性を広げる。

平和が戦争につながるー北朝鮮論 #22019/08/25 16:42

>大戦略と外交力

 大戦略のレベルとは、資源の豊富さ、社会の結束力、人口規模、
 同盟獲得の外交力、・・・中でも、結果を決するのが「外交力」で
 ある。口先だけの表面的な同盟ではなく、実質が伴う同盟関係
 を考えなくてはならない。

 戦略の世界では、Discipline がモノを言う。ここで、D.とは、戦略
 ロジックを出し抜くことはできない、という認識能力のことである。

 日本が1941年に戦争を始めた時点で、同盟国を持っていなかっ
 た。三国同盟は名ばかりのもので、独は太平洋にまで軍を派遣
 できなかった。

 ワーテルローの戦いに英の同盟工作とはどのようなものであった
 のか?
 
 ナポレオンがLion だとすると、英が集めた同盟国はGogs & Cats
 であった。戦闘力としてはほとんど無価値に思える小国を英は無
 視していない。彼らを同盟国してリクルートすることこそ・・・
 ナポレオン軍12万人に対して、英が集めたのは23万人だった。
 「猫」や「犬」でも、十分な数が集まれば「ライオン」を倒すことが
 できる。NATOを結成した米は、これのコピーである。

 英のエリートは「暴力」「戦争」「平和」そして「同盟」が何たるか
 を理解している。戦闘に勝つことは重要である。しかしそれ以
 上に重要なことは同盟国をリクルートすることだ。その根底に
 あるのが「暴力」についての理解だ。彼らは「暴力がよいもの
 である」ことを知っており、「暴力の有益性」を知っている。だか
 ら、暴力の存在から目を背けないのである。

>戦略は政治よりも強い

 1972年、ニクソンと毛沢東の米中協力関係が樹立した。
 これは、ソ連の軍事力規模が一定の限界を越え始めたから
 ・・・米中協力によるソ連弱体化が始まったのである。

 戦略において、理解することが最も難しいことは、すべては逆に
 動く!、即ち「戦争ではすべてのことが逆向きに動く」ことを理解
 することだ。
 たとえば、戦争が平和に繋がるという真実、逆に、平和が戦争
 に繋がることを忘れてはならない。
 平時に、脅威に対して何の備えもしないことで、戦争は始まって
 しまう。平和は、脅威に対して不注意で緩んだ態度を人々に齎
 す。脅威が増大しても、それを無視する方向に関心を向けさせ
 るからだ。

 その典型が北朝鮮問題だ。

平和が戦争につながるー北朝鮮論 #32019/08/26 08:36


>北朝鮮への日本の選択肢は4つ

 (イ)降伏
 (ロ)先制攻撃
 (ハ)防衛
 (ニ)抑止

 北朝の軍事関連技術は侮れない。根本的な意味で、日、米以上
 の底力を持っている。人工衛星を打ち上げ、中距離弾道ミサイル
 を発射し、さらに弾道ミサイルを潜水艦からも発射している。
 これらすべてを、彼らは非常に少ない予算で短期間に実現してい
 る。もし日本政府が国内メーカーに、それらの開発を命じても、恐
 らく年間の国防費以上の予算と、調査、研究、開発に15年ほどの
 時間が必要となろう。北朝の軍事関連技術者は、他国技術者の
 5倍以上の生産性を有している、といえる。

 イランは核開発に北朝の5倍もの時間をかけながら、1発の核兵
 器に必要な核物質さえつくり出せていない。人工衛星の技術もな
 い。

>降伏

 北朝が何を望んでいるのかを聞き出し、すべての経済制裁を
 解除する。金一族を称える博物館を表参道に建て・・・
 代わりに、日は北朝に500km以上の射程を持つミサイルの開
 発を止めてもらう・・・

>先制攻撃

 攻撃するならば、先制攻撃でなければならない。核関連施設を
 特定しつつ、それらすべてを破壊するのである。イスラエルは
 先制攻撃能力を持っている。儀式的なことは一切抜きに、ただ
 実行するのみ。空と陸から同時に行う。
 北朝のミサイルは、侵入の警告があれば、即座に発射される
 システムになっているのかもしれないので、北朝を攻撃するこ
 と自体に大きなリスクが伴う。
 もし北朝を本気で攻撃するのであれば、地上に要員を配置し
 て、ミサイルをレーザー誘導しなければならないから、何らかの
 方法で人員を予め北朝内にさせておき、目標を把握しておかな
 ければならない。
 能力があっても、それを使う意志がなければ、能力は何の意味
 もなさない。

>防衛と抑止

 抑止としては、日が1000km射程の弾道ミサイルを持ち、そこに
 Dual Use(民事・軍事両用)の核弾頭を搭載する。本土上に配備
 できないのであれば、潜水艦に核弾頭を積んだ巡航ミサイルを
 配備してもよい。
 最後の選択肢としては、防衛がある。
 現在(2017年)、最も精度の高いミサイル防衛システムはイスラ
 エルの「アイアン・ドーム」(短距離ミサイル用)、「ダビデ・スリン
 グ」がある。前者の迎撃率は95%で、・・・ミサイル防衛システム
 の精度を上げるには、敵から何発もミサイルを打ち込まれる経
 験が必要となってくる。しかし、一発の着弾もあってはならない
 事態には十分ではないということだ。

>以上の4つの選択肢の代わりに選択されているのは、「まぁ、
 大丈夫だろう」という無責任な態度だ。これは極めて危険であ
 る。中が北朝に対して何も行動していないから、「制裁」は丹東
 では、何らの効力を持ちえないにも拘らず、日は北朝に対して
 何も行動していない。

 1945年以来、日本国民も他国や他民族が戦争の悲劇に見舞
 われてきたことを目撃してきた。それらすべてのケースが何故
 発生したかといえば、当事者たちの「まぁ、大丈夫だろう」とい
 う思い込みからだ。人間は、平時にあると、その状態がいつま
 でも続くと勘違いをするから、戦争が発生する。それは、降伏
 もせず、敵を買収もせず、友好国への援助もせず、先制攻撃
 で敵の攻撃力を奪うこともしなかったからである。

 今、北朝に関して生じている状況がまさにこれである。
 米は北朝の核開発阻止に関して何もしていない。中も、露も、
 他の西側諸国も同様。さらに韓自身も何もしていない。韓は
 何度も北朝に攻撃されているのに、何も行っていない。

 戦略の Discipline が教えるのは、「まぁ、大丈夫だろう」という
 選択肢はありえないということだ。それでは、平和が戦争を生
 みだしてしまうからだ。
 日本政府は自ら動くべきだ!
 国際的なミサイルの制約である「500km」射程は、半島の非
 武装地帯から下関までの距離である。したがって、「500km
 以上」射程のミサイル破棄を求めるべく行動を起こす。その
 内には、降伏(「宥和」)策も立派な政策なのである。これは
 無責任な態度ではない。「まぁ、大丈夫だろう」という無責任
 態度の代わりになりうる一つの選択である。

 別の選択肢としては「先制攻撃」がある。特殊部隊90人は犠
 牲となるも、1億余の日本国民を守るためだ。