「量子力学の本心」2024/03/01 09:46

from 「今日のミトロジー」中沢新一(週刊『現代』連載中)

>2022年ノーベル物理学賞は、アスペ博士らの「量子もつ
 れ(Entanglement)」の研究に贈られた。・・・
 (この研究の真骨頂は)物理学の根幹にかかわる、重大
 な問題に焦点を合わせている。・・・
 量子もつれに、人間の意識が介入すると事態は一変(※)
 してしまう。

 ※ 量子力学はミクロのレベルでは、あらゆる物質がお互
   いに作用を及ぼしながらつながっていて、全体運動を
   行なっていると考えている。そのために初め近くにい
   て影響を及ぼしあっていた二つの物質を、無限に遠く
   まで引き離したとしても、一方に変化が起こると、その
   情報は即座に無限に遠くにいる物質に伝わっていき、
   もう一方にも変化を引き起こしていくことになる。

>意識が介入する以前には、全宇宙はお互いつながりあ
 いながら運動しているので、局所での「状態」というもの
 は、決まっていない。しかし意識は物事を「分別」しようと
 する本性を持っているので、状態がないところにも状態を
 見つけようとする。その結果、実験で一つの状態が決め
 られると、もともとそこにあった筈の全体運動は途端に
 消えて見えなくなってしまう。・・・
 人間はこの分別する知性(常識形成)を発達させたおか
 げで、宇宙の本当の姿が見えなくなっている。そうして
 本当でない宇宙の姿を「ほんもの」と妄想して、自分たち
 の世界をつくっている。

>ところが、心が分別の働きを一瞬でも止めることがで
 きると、そこにはまったく違う「無分別」の世界があらわ
 れてくる。そこではあらゆる事物は互いに関係し合って、
 孤立しているものはなく、宇宙の一部に起こった出来事
 の情報は、瞬く間に全体に波及していく。

サリヴァン先生は「w-a-t-e-r」と綴った2023/12/31 07:00

 「その朝、彼女(注、ヘレン・ケラー)が顔を洗っていた時・・・
 私は w-a-t-e-r と綴りました。
 ・・・(その後ポンプ小屋で)ヘレンに私がポンプを押している間、
 水の出口の下に、コップを持たせておきました。冷たい水が
 どっと流れ出てコップを充たした時に、私はヘレンの、何も持っ
 ていない方の手に、w-a-t-e-r と綴りました。手の上にかかって
 くる冷たい水の感触に、密接に結びついてきた、この言葉は、
 彼女を驚かしたようでした。彼女はコップを落とし、釘づけに
 されたように立っていました。新しい光明が彼女の顔に現れて
 きました。彼女は数回 w-a-t-e-r と綴りました。・・・彼女は代
 わるべき言葉を用い始めるや否や、それまで使っていた合図
 と身振りをやめました。そして新しい言葉を覚えることに、最も
 生き生きしたよろこびを覚えるのです。そして、私たちは、彼女
 の顔が毎日毎日と豊かな表情となるのに気づいているの
 です。」 (カッシーラー『人間』岩波文庫、pp.79-81)

老化は治療できるか#202023/11/21 12:08

  from 『文藝春秋』河合香織、2023年3~7月


>軽く息が切れる程度の運動

 脳の老化を防ぎ、幸せな老後を過ごすための基本、
 それは結局は”運動”である。加齢は止められない
 ので、脳が萎縮することは仕方がない。けれども、
 加齢を抑える生活習慣があることが分かってきて
 いる。歳を取っても脳を健康に保つためには、動脈
 硬化を如何に抑えるかが大事!また、鬱病も将来
 の認知症リスクを高めることが分かっているので、
 薬や生活習慣によって心身の状態をコントロール
 する視点を持つように。その上で、軽く息が切れる
 程度の運動を日々の生活の中で習慣化することだ。

>主観的幸福感

 運動と頒かち難く関係しているのが、好奇心や学び
 直しである。趣味や好奇心が脳の健康を保つため
 に必要なのかの答えの一つが、「脳の可塑性」であ
 る。脳には何歳からでも変化に対応する力が備わっ
 ている。とりわけ「主体的・能動的に学ぶこと」である。
 もう一つ、脳の老化予防にとって大事なのは「会話
 によるコミュニケーション」である。

>脳に「手遅れ」はない

 「不安や心配を感じる時、扁桃体が活性化している。
 そのすぐ隣りにある海馬が、扁桃体の暴走を抑える
 役割を果たしている。そして海馬は運動をすることで、
 その機能が高まる。つまり、”運動は最強”と言える
 のです」
 人生百年時代に必要な視点は、マインド・セット!
  cf. 『100歳の美しい脳』(デヴィッド・スノウドン)

 (東北大スマート・エイジング学際重点研究センター)
 「スマート・エイジングとは、たとえ高齢期になっても
 人間として成長でき、より賢くなれること・・・高齢期
 を”知的に成熟する人生の発展期”と捉えていること
 が特徴です。今日、思い立ったら、その日から自分
 のやりたかった新しいことを始めればいい。自分に
 『壁』を作らないこと!それが結局は、脳を健康に保
 ち幸せになる秘訣です」

 ※ 後悔が残るくらいがちょうどいい
    春あわゆきのほかほか消える (東直子)

老化は治療できるか#192023/11/20 12:03

from 『文藝春秋』河合香織、2023年3~7月

>人によって違う体内時計リズム

 村上春樹が、早寝早起きの生活を送り、日々の
 ジョギングを欠かさず、野菜サラダを作るのが好
 きで、書斎に籠もって毎日決まった時刻に仕事す
 るような作家であること(『職業としての小説家』)
 はよく知られている。

 八木田和弘(時計遺伝子研究)によれば、個人差
 「クロノタイプ」が存在し、「体内時計を制御すること
 で老化コントロール?」には、サーカディアン・リズ
 ムが光の影響によって調整される機能に着目し
 ている。
 「体内時計は朝の光によってリセットされる一方、
 夜の光によって後ろにずらされます。光を調節し
 て体内時計を整えることは、老化をコントロール
 することに繋がります。特に午前中の明るい光
 は乱れかけた体内時計を整えてくれます。日中
 に光をしっかり浴びて夜間のメラトニンの分泌を
 増やすこと。曇りの日(10,000ルクス)でも、照度
 は十分に足りています。昼間の運動と夕方の
 運動(代謝効率がよい)が効果的で、夜遅くの
 運動は眠気を遠ざけます。そして朝食が大切で
 す。蛋白質の多いメニューを摂るのが良いで
 しょう」
 「体内時計は地球上で進化したあらゆる生命に
 共通した<秩序の源泉>だと言えます。もし
 この体内時計、つまり時間を操作することができ
 れば、老化を止めることも可能かもしれません」

 ※ 地球のリズムと生体リズムが合うと、心身共
    に体調が良くなってきます!

老化は治療できるか#182023/11/19 11:58

from 『文藝春秋』河合香織、2023年3~7月

>睡眠は最高のアンチエイジング

 ※ オレキシンの発見(1998年):
    柳沢正夫(筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構)

 日本人は「睡眠の質」を考える以前に、「量(6-8時
 間)」が足りていない。私に言わせれば、それは
 <覚醒>依存症のように見える。
 「寝すぎそのものが問題なのではない。そもそも人は
 必要以上に長く眠れません。長時間睡眠の人の寿命
 が短いのは、それだけ眠れなければならない何らか
 の身体の問題を抱えているからだと考えられます」

>レム睡眠の減少は認知症リスク

 オレキシン拮抗薬が不眠症治療薬として発売されて
 いる。それは髄液中のアミロイドβやリン酸化タウ蛋
 白質を減らすという最新の研究・・・
 (柳沢)「これは期待の持てる報告です。オレキシン
 受容体拮抗薬には依存症がないため、眠れるように
 なったら卒業できる利点もあります」
 「加齢の影響を少なくする一番の近道は、睡眠時間
 について考えることだと言えます。自分にとって必要
 な睡眠を知り、そのペースを日常的に守ることです。
 どれだけの睡眠時間が必要かは、遺伝子によって
 異なります。人によって違うということです。<自分で
 実験しながら必要な睡眠量を把握すること>になり
 ます」

>明るすぎる日本の夜

 分かっていることとしては、夜間の光は睡眠の質を
 高める上での天敵だということだ。

老化は治療できるか#172023/11/18 11:52

from 『文藝春秋』河合香織、2023年3~7月

>半導体に記憶をアップロードする

 老化研究にとって脳が特別な存在なのは、代替
 不可能な臓器であるからだ。しかし、この取り換え
 は不可能という大前提を覆そうとする研究がある。
 渡邉正峰がテーマとしているのは、脳の記憶や意
 識をコンピュータ上にアップロードするというもので
 ある。
 「今、記憶について分かっているのは、海馬には記
 憶がインデックスのように蓄えられているということ
 です。つまり、ランダム脳の側頭葉を刺激すれば、
 人は走馬灯のように記憶を蘇らせるわけです」

 そこで、彼が提示する方法とは、神経細胞の入れ
 換えではなく、土台となる「誰のものでもない」意識
 を予め宿すマシンに人間の脳を接続し、新型の
 BMI(brain machine interface)を介して記憶を転送
 することで、最終的には「私」の意識を移し替えると
 いうものだ。元の生体脳が死を迎えても、その人
 は機械の中で生き続けることになる――。

>「意識」をコンピュータ上に再現

 ここでポイントとなるのは、「意識」とは何かという
 問題だ。
 実際に”ネクトーム社”(MT発ベンチャー)は、死亡
 した人の脳を取り出して、それをごく薄くスライスし
 て、ニューロンがどのように結合しているかを読み
 取っている。その情報をコンピュータ上に複製して
 いくことで、亡くなった人の意識の移植を試みてい
 る。
 (渡邉)「これらの手法により、神経細胞間の配線
 の有無を抽出することは出来ますが、配線の強度
 を十分な精度で読み取ることはほぼ不可能です。
 私の手法は、生きたまま脳の意識を移植する方法
 で、先の手法から得られる神経配線の有無は、あ
 くまで機械の配線の初期状態としてのみ用いる
 ことになります」

 脳を機械に繋いで日常生活を送ることで、機械の
 意識を「私色」に染めていく方法を考えているのだ。

>不老不死は楽園なのか?

老化は治療できるか#162023/11/17 11:48

from 『文藝春秋』河合香織、2023年3~7月

>デュアルタスクと睡眠の重要化

 ※ デュアルタスクは、有酸素運動をしながら
   「頭を働かせる」というもの

 睡眠が認知機能にどのように関係しているのか、
 そのメカニズムは未だ分かっていない。一つの仮
 説として考えられるのは、グリア細胞の果たして
 いる役割だ。
 ※ グリア細胞は、脳の1/2~2/3を占める非神経
   細胞で、増えたり減ったりする

 脳内で、原因となるアミロイドβやタウといった蛋白
 質の代謝を行なっているのがミクロ・グリア細胞で、
 起きているときに比べて寝ている時にその機能が高
 まる。ちなみに、脳の免疫機能に関する研究は最近
 急速に進んでいる。そうした脳の免疫機能と体の
 免疫機能には、思った以上の関係性がありそうで、
 「脳腸相関」という考え方がその一つだ。

>脳細胞が死んでも記憶は死なない

老化は治療できるか#152023/11/16 11:40

from 『文藝春秋』河合香織、2023年3~7月


>細胞を初期化する技術

 エピジェネティックスはDNAメチル化とヒストン修飾
 によって制御されているが、そのうちDNAメチル化
 の量を特定の遺伝子で刺激すると、ほぼ実際の生
 物学年齢(エピジェネティック時計)と一致した。この
 時計をゼロ歳に戻す方法が存在すると岡野栄之は
 言う。
 「(山中四因子と呼ばれる)四種類の遺伝子を導入
 すると、エピジェネティック時計はどんどん若返り、受
 精後数日の状態(細胞の初期化)になった。それを
 臨床の現場でどのように応用できるかは、今後の
 課題です」

 すべての細胞に四因子を導入すると、全部が初期化
 されてしまい、生きることが出来ない。これを限定的に
 使い、細胞を若返らせることを「細胞リプログラミング」
 と呼び研究が進められている。ここで重要なのは、
 「モノの老化と細胞の老化」はまったく違うということだ。

 では、細胞が初期化されるのであれば、脳の神経
 細胞自体を増やすことは出来るのだろうか。
 (加瀬義彦)「神経細胞を人工的に新しく増やそうと
 すると、やり方では記憶を失ってしまう。新しく作ら
 れた回路が元にあった回路を侵食してしまうから。
 記憶の直線性を失わせてしまう可能性もあります」


>アミロイドβの増加を抑える

 レカネマブ(アミロイドβの蓄積を減少させる認知症
 治療薬)がFDAの承認を受けた。

>光認知療法の衝撃

 光認知療法の利点は、薬効を脳だけに絞れること・・・
 ここで留意しておきたいことは、レカネマブも光認知
 療法も脳に溜まった蛋白質を取り除くことは出来て
 も、やはり既に失われた神経細胞を増やせるわけ
 ではないということだ。

>脳の「ゴミ」はS字カーブで増える

 今、認知症の治療ではMCI(mild cognitive impairment:
 軽度認知障害者)を、認知症が発症する前に発見し、
 積極的にレカネマブなどを投与していこうという流れ
 がある。富田泰輔は、アミロイドβが蓄積し始めるか
 どうかを血液検査で調べるバイオマーカーの手法を
 開発し、MCIの更に前段階で「認知症予備軍」の人を
 見つけることを目指している。
 (富田)「脳に溜まるゴミもシグモイド(S字曲線)的に
 増えることが分かっています。つまり、最初はチョッと
 ずつしかふえないのですが、増え始めると一気に
 増えて、その後はフラットになります。蛋白質が溜ま
 る前の兆候を明らかに出来れば、認知機能が正常
 な段階から積極的に治療を始めることが可能になる
 筈です」

老化は治療できるか#142023/11/15 11:33

from 『文藝春秋』河合香織、2023年3~7月

>スーパーセンチナリアン(超110歳)の謎

 141人/2020年(1人/90万人)
 
 (慶應大医学部)百寿総合研究センターWeb.siteから、

 「何がスーパーかというと、単に寿命が長いという
 ことだけではなく、多くのスーパー・センチナリアンは
 百歳時点でも自立した生活を営まれており、健康寿
 命が百歳を超えて・・・」
 「スーパー・センチナリアンは脳の状態と関連した
 エピジェネティックスが百歳を超えても若い状態に
 保たれていることが分かっています」
 「スーパー・センチナリアンたちには、アポリボ蛋白質
 E4(APOE4)という遺伝子のタイプが極めて少ないこと
 が分かりました。これはアルツハイマー型認知症を引
 き起こすリスクが最も高い遺伝子です。よって、認知
 症のリスク因子が少ない人は、より長寿になりやすい
 と・・・」
 
 同センターの調査によると、認知機能が高く保た
 れているだけでなく、また血管機能も強く保たれてお
 り・・・

老化は治療できるか#132023/11/14 11:24

from 『文藝春秋』河合香織、2023年3~7月


>老化を可視化する

 老化をビジュアル化して指標やリスク・スコアを作
 ろうという研究を進めるのが南野徹である。彼は
 老化の原因となる老化細胞除去の研究・・・
 「今、対象にしているのは病的な老化、分かりや
 すく言うと健康寿命を短くするような老人化を治療
 できないか、というコンセプトで研究を進めています。
 ・・・老化の制御が可能かというと、少なからず制御
 は可能ではないかと思っています」

 開発したいのは、”アンチエイジング・ワクチン”で
 あるが、未だ臨床応用はされていない。老化を治療
 するためには、老化の存在を可視化しないと先に進
 まない。しかし、今のところ老化細胞が溜まっている
 かどうかを可視化する方法はない。

 (南野)「老化に関しても、癌のTNM分類のような
 リスクの層別化が必要で、大規模調査でDB化された
 血液やMRIなどのデータを幾つか組み合わて、老化
 の進み具合を可視化できれば・・・そこから予後であ
 る『3年後生存率』を出せれば・・・」

 老化によって人は生命を落とす。その前に老化を
 病気として認識し、治療や予防することを目指した
 い。

>同じ車に百年は乗れない

 老化の指標やリスク・スコアを作るにしても、その
 優先順位が難しい。脳の問題は老化を考える上で、
 最重要の問題であろう。
 (今井)「視床下部が、老化と寿命の制御に非常に
 重要な役割を果たしている。そこが体の他の臓器と
 コミュニケーションを取ることによって、抗老化に働く
 ように体のバランスを取っています。ですから視床
 下部の特定の機能を高めてやったりすると、寿命が
 伸びる。他の臓器の機能をどれほど高めても、その
 老化のコントロールセンターをどうにかしないと限
 界が来てしまう」

 サーチュインの機能を活性化させる方向に司令を
 出すのも視床下部だ。脂肪組織と骨格筋と視床
 下部との間では、相互にコミュニケーションがあり、
 制御されている。
 (今井)「もしiPS技術が進んで、臓器などのパーツ
 が取り換えられるようになったとします。そうする
 と120歳よりもう少し寿命は延びると思います。で
 も、どんなに取り換え可能な臓器を代えても、それ
 らをコントロールする中枢部の神経細胞が新しく
 ならないと、最終的には駄目になるでしょう。
 将来、更に科学技術が発達して、脳の中枢の神経
 細胞の機能を高めたり、新しいものに入れ替えたり
 出来るようになったら、もっと寿命は延びるでしょう
 ね。50年か100年先の話だと思います。だけど、
 それ以前に人生百歳まで元気に寝たきりにならず、
 120歳くらいまでには死ぬという社会は、10~20年
 後には来ると思います」

 とはいえ、気になることがある。視床下部の神経
 細胞を、もし取り替えたら、そのまま同じ自分とい
 えるのだろうか。

 (今井)「視床下部は情動もコントロールしますか
 ら、取り換えた時にその人の情動がそのままかは
 保証の限りではありません。別人格になってしまう
 こともあるかもしれません」

 脳の老化を食い止め、同じ人間として連続性を保
 つためにはどうすればいいのか。