阪神大震災メモ #142014/05/14 19:14

「二つの焼け跡」(諸井薫、『PRESIDENT 1995.3』)

「この二十世紀における二大災禍(大正12年の関東大震災、昭和
20年の東京大空襲)と比べたら、今回の阪神大震災の被害はケタ
はずれに小さいわけだが、・・・(被災した)人達の受けた精神的打
撃は、逆に比較にならないほど深く重いように思われてならない。
(中略)
大空襲も大震災も遠い歴史の一齣となってセピア色に変色し、バ
ブルはじけの平成不況とやらも、慣れてしまうとさほどのものでは
なく、・・・ボスニア・ヘルツコビナや、ルワンダでどのような殺し合
いがあろうが、チェチェンで凄惨な市街戦が続こうが、それこそ対
岸の火で・・・だが、恐怖体験はそれがどのように凄まじいもので
あったとしても、時が癒して忘れさせてくれるだろうが、時間が経
つにつれて、かえって絶望が募り、死への誘惑に駆られるという
こともあるに違いない。」

「つい昨日まで親しく往き来していた隣家の老人が、倒壊した家
屋の下敷きとなって、声も立てずに一瞬のうちに圧死を遂げ、生
き残った隣人は、その死を惜しんで泣いたが、四、五日して、自
分の置かれている状況を確認すればするほど、あっけなく圧死し
た老人をむしろ羨望し、生き残る方がはるかに地獄だったと・・・
その人は、今度六十で定年を迎え、三十八年勤めた会社を辞め、
友人のやっている小さな製靴業の下請け会社に、第二の就職が
内定していた。家は三十坪ばかりの一戸建てだが、一度建て替え
たその建築費のローンが、元利合わせてざっと六百万円ばかり残っ
ていて、後七年は返済が続く計算だ。・・・定年後ももう一ふんばり
だと自分で自分に言い聞かせていた矢先の、この降って湧いたよ
うな大地震だ。家は半壊というところだが、とても住める状態では
なく、取り壊して建て直す以外にはない。しかし、ローンの残債が
ある上にさらに新しい借金などできるわけがない。退職金も年金
も老後生活資金に当てる予定だから、他に転用はできない。さら
に参ったのは、新しい就職先である神戸市長田区にある製靴会
社が全焼し、肝腎のそこの社長である友人が焼死してしまったこ
とである。」

「考えてみれば、国や地方自治体がしてくれることといえば、ら災
して小学校の避難所にいる間の食事の面倒くらいなもので、一段
落すればおしまいだ。仮設住宅とやらも一時的なもので、生活を
建て直すまでどうぞお使いくださいというものでもない。その人が
私に言ったしめくくりの言葉はこうだった。
『・・・結局平和ボケなんですな。・・・所詮人生は、自分のことは自
分で守るしかないんですよ』」

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