『ペスト』#8-22020/04/24 16:45


>実に長い間、この町の人々の上にその憐れみのお顔を
 臨ませ給うていられた神も、待つことに倦み、永劫の期待
 を裏切られて、今やその目を背け給うたのであります。神
 の御光を奪われて、私共は今後長くペストの暗黒の中に
 落ちてしまいました。・・・死の狩りたてが、今日私共の町
 の路上を駆け巡っているのであります。・・・この瞬間に、
 ペストはあなた方の家の中に入り、そこにいます。ペスト
 があなた方の方へ伸ばすその手は、如何なる地上の力も、
 また、かの空しい人智なるものといえども、あなた方がこ
 れを避けようなどとすることはできないのであります。

 そうです、反省すべき時が来たのであります。あなた方は、
 日曜日に神のみもとを訪れさえすれば、あとの日は自由だ
 と思っていた。しかし、神は生ぬるい方ではないのでありま
 す。あなた方の来ることに待ち疲れ給うた神は、災禍があ
 なた方を訪れるに任せ、およそ人類の歴史なるものが生
 まれて以来、罪ある町のことごとくに訪れた如く、それが
 訪れるに任せ給うたのであります。

 あなた方は今や、罪の何ものたるかを知り得るのです。
 この町があなた方とこの災禍を閉じ込めて囲いを閉ざした
 日以来、あなた方はちょうどそれらすべての罪を知った
 人々がしたように、一つの新たな眼を生き物や事物の上に
 向けているのであります。あなた方は今こそ、そして遂に、
 本質的なものに戻らねばならぬことを知ったのであります。

>私は皆さんを真理に行き着かせたい。そして喜びを持つ
 ことを皆さんに教えたいと思うのであります。忠告や友愛の
 手が皆さんを善へ押しやる手段であった時期は、もう過ぎ
 去りました。今日では、真理はもう命令であります。そして
 救済への道は、則ち赤い猪槍がそれを皆さんに指し示し、
 またそこへ押しやるのであります。
 ここにこそ、皆さん、あらゆるもののうちに善と悪とを置き、
 怒りと哀れみと、ペストと救済とを置き給うた神の慈悲が、
 遂に明らかに顕現されているのであります。皆さんを苦し
 めているこの災禍そのものが、皆さんを高め、道を示して
 くれるのであります。