セネカ#102020/06/26 08:08


>手紙13:理由なき恐怖に苦しむな

 ・「人は謂れなき恐怖によって苦しむな」

  大抵の人は、もしかすると間もなく自分に襲いかかる
  かもしれない災厄を予想して苦しんでいる。失職、病
  気、事故、盗難、老後の心配、等々、理由はいくらで
  もある。そんな不安の多くは来るかもしれないが、来
  ないかもしれない。それを来ない前から予感して怯え
  ることくらい愚かしいことはない。人は不確かなもの
  への怖れで苦しむべきではない。事態が来るなら来さ
  せればよい。その時に物事の実態をよく見極めれば
  いいのであって、すれば、大抵のことは大したことでは
  ないと分かる。自分の判断だけを信ずればいいのだ。

 君には勇気がある。君は運命に対して自分の力だけを
 信じてやって来た。そして運命と戦闘状態になって、自分
 の力を存分に試した後は、なおさらそうだからだ。
 人は多くの厄介事があっちにもこっちにも持ち上がり、時
 にはごく身近にまで迫って来た時でなければ、自分の力
 への揺るがぬ信頼を証明することは出来ないものだ。そ
 のようにして、本物の勇気、すなわち絶対に他人の支配
 下には入らぬことが試される。

 運命は既に何度も君よりも優勢になった。にもかかわら
 ず君は屈服しないで、直ちに飛び起き、前より激しく運
 命に立ち向かった。すなわち要求されるたびに君は勇
 敢であることを十分に示した。

 我々を実際に打ち負かすものより、我々を恐怖に陥れ
 るもののほうが多くて、我々は現実そのものによってよ
 りも、想像に苦しめられることのほうがよほど多いのだ。
 どういうことかと言えば、あるものは必要以上に我々を
 苦しめ、あるものはそれが必要になる前に我々を苦し
 め、あるものは怖れる必要なぞ全然ないのに我々を苦し
 めているということだ。我々は苦痛を誇張しているか、
 先取りしているか、空想しているか、そのいずれかなん
 だ。

 人々が君を取り囲んで、お前は不幸なのだと君に信じ
 込ませようとするような時は、君が聞いたことではなく、
 君が感じたことだけを考えよ。そして、君のことは君自
 身が一番よく知っているのだから、落ち着いてよく考え、
 「この連中が僕を気の毒がるのは何故だろう?」、「僕
 は何の理由もないのに苦しみ、悲しんで、悪でも何でも
 ないものを悪としているだけではないのか?」、「僕を
 不安に陥れているものが、存在しないものか、現実の
 ものか、そんなことを僕に知りようがないのではない
 か?」と自問する。