セネカ#10-22020/06/27 08:20


 我々はたいていの場合、事実よりは臆測で苦しむもの
 だからだ。風評というやつが、我々を引き摺り回す、い
 やむしろ人間一人ひとりを駆り立てる。・・・迷走する羊
 の群れが巻き起こした土煙を見て戦場から逃げ出した
 あの兵隊たちのように、我々も背を向けて逃げ出した
 り、根拠もないのに広がった何らかの噂で恐怖に陥れ
 られるんだ。
 どういうわけか、存在しないもののほうが余計に人を
 混乱するようだ。存在するものにはそれ自身の尺度が
 ある。ところが何であれ無知から生じたものは、人を勝
 手な想像とビクつく心の気紛れ溺れさせてしまう。
 だから妄想から来る恐怖くらい壊滅的で、どうしようもな
 いものはない。それ以外の恐怖には根拠がないが、この
 恐怖には理性がない。


 未来には何らかの災難が起こるかもしれないが、それ
 は今のところ現実にはない。何と多くの予期せぬ出来
 事が起こったことか!
 何と多くの予期していた出来事が起こらなかったことか!
 たとえ将来それが起こるとしても、今からその苦しみを
 先取りして何になる?
 それが本当に来た時に苦しんでも遅くなないだろう。
 君は希望と恐怖とをよく確かめよ!
 不確かなものはすべて自分にいいように考えよ!
 君の好むものを信じよ!
 
 人間の大部分は、災難に見舞われなくても、これからも
 確実に来ないと分かっていても、いつも落ち着きなく慌
 てている。そしてひとたび災難が起こったが最後、不安
 に陥らないでいられる者など一人もいないし、実際にふ
 さわしい尺度にまで恐怖を引き戻すことも出来ない。
 我々はかすかな風の音にも震えてしまう。・・・