『ペスト』#112020/04/28 16:12


>ペストは兵士、修道者、あるいは囚人など、すべて集団をなし
 て生活する習慣を身につけた人々に対して特に猛威をたくまし
 くするように思われた。ある種の拘禁者は隔離されているとは
 いえ、牢獄は一つの共同体であり、そしてそのことをよく証明す
 るものは、この市の牢獄において、看守たちも囚人に劣らず、
 病疫に対する年貢を納めたということである。
 ペスという一段高い見地からすれば、所長から最も軽微な拘
 禁者に至るまで、すべての者が逃れぬ運命を宣告された人
 間であり、そしておそらく初めて完全無欠の正義が牢獄内に
 行われたのである。・・・

 それに、刑務当局者は、教会関係や、またそれよりは控え目
 な程度で軍関係がやったようにはやれなかった。市内に二つ
 きりの修道院の会士は、事実、信心深い家々に臨時に分散
 宿泊させられていたのであった。同様に、兵営からは、そう
 できる時にはいつでも、少分隊が分遣されて、学校や公共の
 建物に駐屯させられていた。
 こうして、一見、攻囲された者の連帯性を住民に強制してい
 たと見られる病疫は、同時に、伝統的な結合を破壊し、また
 各個人をめいめいの孤独に追いやっていたのである。
 これは混乱を生み出した。これらのすべての状況が、ある種
 の人々の精神にもまた火事を生ぜしめたことは考えられる。
 市の各門口はまたしても、夜間、何回となく、しかも今度は
 武装された小集団によって襲撃された。衛兵所は強化され、
 こういう企てはかなり急速に跡を絶った。。それでもこれは、
 市内に一抹革命の息吹を生ぜしめるに十分であり、それが
 若干の暴力的な場面を誘発した。火災を被った、或いは保
 健上の理由から閉鎖された家屋が、略奪されたのである。

 たいていの場合は、突然の機会が、それまで立派な人物
 であった人々をけしからぬ行動に出させ、それが即座に見
 習われるのであった。