ミトコンドリア(覚)#32022/02/17 08:32


from 『LifeSpan』(デビッド・A・シンクレア、他)
『長生きしたければミトコンドリアの声を聞け』(大谷肇)

>「食」と「インスリン情報伝達系」 

  生活になくてはならない「食」が細胞内で引き起こすシグナル
  伝達の変化

  インスリン受容体の活性化>

  「食」~体内に入ったブドウ糖⇒インスリン分泌
  ~細胞表面のインスリン受容体と結合(老化のマスタースイッチ)
  ~情報伝達経路を介して、ブドウ糖が細胞内に取り込まれる

 ※ PI3K: KPhosphatidylinositol-3 kinase
        (Aktをリン酸化し、活性化する酵素)
    Akt: (Protein kinase B)PI3Kによって活性化され、生存促進、
      代謝促進、細胞分裂に関与する
    GLUT4:Glucose transporter 4
       (Aktの作用で細胞質から細胞膜上に移行し、ブドウ糖
        を取り込む)

  インスリン受容体の活性化は、生きる原動力を生み出すエネル
  ギー産生工場の扉を開くが、一方では、老化促進のマスター
  スイッチでもある!!

>インスリン情報伝達系に対峙しているのが、アディポネクチン

  カロリー制限や運動によってスリムになった内臓脂肪から分泌
  されるアディポネクチンは、様々な長寿遺伝子の上流にあって、
  動脈硬化や癌を予防して老化を遅らせる。
  内臓脂肪は、「飴と鞭」を使い分け、後者の炎症性サイトカイン
  に対し、前者がアディポネクチンとなる。これは成熟した小型の
  内臓脂肪から分泌される善玉アディポサイトカインです。
  アディポネクチンの産生を制御しているのは、PPARγという転
  写遺伝子で、小型脂肪細胞ではPPARγが活性化され、アディ
  ポネクチンの産生が促進される。

  ※ PPARγ(ピーパーガンマ:ペルオキシソーム増殖因子
           活性化受容体γ)

  アディポネクチンの分泌量は内臓脂肪細胞の大きさと反比例
  しているので、メタボリックシンドロームではアディポネクチンの
  血中濃度は低下する。

>アディポネクチンは、細胞内でATPが枯渇し、AMPが増加した
 時に活性化されるAMPK(酵素)の働きを活発にする。

  ※ AMP : アデノシン一リン酸(ATP がその高エネルギー
         リン酸基を二つ失った化合物)
     AMPK:AMP活性化プロテインキナーゼ(細胞を飢餓から
         守るために必要な種々の蛋白質をリン酸化する
         酵素)
    Kinase(りん酸化酵素)というのは、高エネルギーリン酸
         結合を有する分子から、リン酸基を基質あるい
         はターゲット分子に転移(リン酸化)する酵素の
         総称      

 AMPKは細胞内のエネルギーセンサーとして、栄養不足、低酸
 素状態、虚血、あるいは熱ショックなど、細胞内でATP供給を
 枯渇させるようなストレスに応答して活性化され、ATP補充を
 指令するシグナル経路を正に調節する。すると、GLUT4を介
 するブドウ糖の細胞外からの取り込みや、細胞内での代謝が
 進み、血糖が低下する。

 ブドウ糖由来の電子がミトコンドリアに過剰に供給されると、
 電子伝達系で電子の鬱滞を来し、活性酸素を生じる原因に
 なるが、AMPKが活性化された状態では、ミトコンドリアの性
 能は上がっており、電子の流れはスムーズなので容易に活
 性酸素は発生しません。

>AMPKは数々の長寿遺伝子の上流に位置する老化制御の
 マスタースイッチで、SIRT、NRFを活性化する

 ※ SIRT : サーチュイン(休止情報の調節因子)
        Silent mating Type Information Regulation
    NRF : ナーフ(核呼吸因子)Nuclear Respiratory Factor

 ~活性化されたサーチュインは、PPARγなどの転写遺伝子
   の活性化を補助する働きのあるPGC1αの活性を高める。

  ※ PGC1α: Peroxisome proliferator-activated receptor-γ
           coactivator
           PPARγの発現に関わる転写因子の補助因子
          で、ミトコンドリアの再生にとって不可欠な蛋白質
  
 PGC1αは、内臓脂肪では、PPARγを活性化してアディポネク
 チンの分泌促進するが、筋肉ではNRFと協力してミトコンドリア
 の質と量を向上させる。結果、ミトコンドリアにおけるATP合成
 効率は上昇、逆に活性酸素の産生は低下することになる。

 ~次に、FOXO(転写因子)の働きを活発にする。

  ※ FOXO : フォクソ Forkhead transcriptional factor 細胞の
         老化や寿命、酸化ストレス防御、細胞の分化や
         代謝などに関わる長寿遺伝子  
  
 インスリンの作用が活発でPI3K/Akt が活性化されている状態
 では抑制されているが、PI3K/Aktが不活性化されて
 AMPK/SIRTが活性化された状態ではスイッチ・オンとなる。
 FOXOはSODなどの抗酸化酵素を増やすので、AMPK活性化
 されていれば、GLUT4を介してブドウ糖が細胞内にたくさん取
 り込まれてもミトコンドリアでは活性酸素の産生が増えることは
 なく、発生した活性酸素も速やかに除去されることになる。

  ※SPD : Superoxide dismutase スーパーオキシド消去酵素 

>AMPKが抑えるもう一つの老化の主役mTOR(エムトア)

  ※ mTOR : Mammalian Target of Rapamycin 免疫抑制剤
          ラパマイシンの標的蛋白質

 mTORは、PI3K/Aktが活性化されると、栄養が潤沢にあること
 を感知して蛋白質の合成を促し、細胞を増殖させる働きを有す
 るタンパク質。成長期には頑丈な肉体をつくる遺伝子でも、加
 齢に伴い、癌や動脈硬化を引き起こす遺伝子に様変わりする
 ので、酸化ストレスと並んで老化の進行に中心的な役割を果
 たすことになる。
 また、インスリン受容体がそのシグナルを下流に伝える中継
 基地として働いているIRSの分解を促して、インスリン受容体
 刺激がPI3k/Aktに伝わる(GLUT4活性化、eNOS活性化、etc.)
 のを阻害し、インスリンが効かなくなる(「インスリン抵抗性」)。

 ※ IRS : インスリン受容体基質 Insulin Receptor Substrate
eNOS : 内皮型一酸化窒素合成酵素
        Endothelial Nitric Oxide Synthase
    NOS : 一酸化窒素合成酵素 L-アルギニン(アミノ酸)と
        酸素から一酸化窒素を合成

 mTOR活性化→PI3K/Aktシグナル伝達経路遮断は、正常な
 細胞機能に甚大な被害を齎す。
 逆に、AMPK→mTOR不活性化→PI3K/Aktシグナル伝達経路
 復活→GLUT4(筋肉や肝臓でのブドウ糖取り込み増加)
 →血糖減少