ミトコンドリア(覚)#52022/02/19 06:55


from 『LifeSpan』(デビッド・A・シンクレア、他)
『長生きしたければミトコンドリアの声を聞け』(大谷肇)

>mTORが鍵を握る成長と老化

  インスリン⇒mTOR活性化 ; 成長ホルモン⇒mTOR活性化

 インスリン→インスリン受容体/IRS/PI3K/Akt/GLUT4シグナル
 伝達経路を介して細胞内へのブドウ糖取り込みが増加するが、
 PI3K/AktはGLUT4以外の経路にも繋がっており、その一つが
 mTORとなる。mTORは、細胞環境の栄養状態を感知し、富栄養
 条件化では、蛋白質や細胞増殖に関わっているので、胎生期や
 成長期には必須の回路である。けれども、繁殖期をすぎれば、
 食に伴うインスリン分泌はmTORを介して老化を促すことになる。

 脳下垂体でつくられる成長ホルモンは、肝臓に作用してIGF-1
 を合成させ、これが身体発育を司っている。IGF-1受容体は、
 その下流でIRSをインスリン受容体と共有している。インスリン
 とIGF-1は兄弟関係にあり、成長期には骨や筋肉の成長を促
 す。従って、繁殖期を過ぎてしまえばインスリン同様、mTORを
 活性化して老化を促進する。

 ※ IGF-1 : Insulin-like Growth Factor-1 インスリン様成長因子
IRS : Insulin Receptor Subtrate インスリンのシグナルを下流
       に伝える蛋白質

>mTORの持続的な活性化が齎すストレス抵抗性の低下

 飽食→mTORの持続的な活性化
 →IRS分解(チロシンリン酸化)~減少
 →PI3K/Aktの不活性化~インスリン抵抗性発現
 →GSK3β活性化
 →mPTPの解放~細胞死への抵抗力減少

 ※ GSK3β:Glycogen Synthase Kinase-3 β グリコーゲン合成
          酵素をリン酸化する酵素
    mPTP : Mithochondrial Permeability Transition Pore 「死の
         チャンネル」とも呼ばれるミトコンドリア膜透過性
         遷移孔

>mTORのオートファジー抑制作用が齎す老化

 オートファジーとは、細胞内蛋白質の分解システム(自食作用)
 で飢餓状態でオン
 →分解産物を栄養素として確保すると同時に、「有害ゴミ」 の
   減少と「ゴミの再使用/再生利用」を実行している 

 オートファジーが誘導されると、隔離膜(「オートファゴゾーム」)
 が細胞質内に形成され、過剰であったり、損傷を受けたりした
 細胞内小器官を分解する。電子伝達系が老朽化し、活性酸素
 を大量に放出するミトコンドリアもオートファジーによって排除さ
 れる(「マイトファジー」)。

 mTORの恒常的な活性化に伴うオートファジーの抑制は、細胞
 内に異常な蛋白質を蓄積させ、発癌を促す刺激となる。

>カロリー制限が齎すmTORの不活性化
 
 カロリー制限下では、mTORの不活性化により蛋白質合成は
 低下しているが、ミトコンドリア電子伝達系複合体に属する
 遺伝子の発現はむしろ上昇している
 ~ミトコンドリア電子伝達系複合体蛋白質の増加は、障害を
   受けた電子伝達系の機能を正常化
 ~オートファジーで排除されたミトコンドリアの再生

 ※ ミトコンドリアの老化は、活性酸素による内幕の脂質成分
   であるカルジオリピンが酸化され、ミトコンドリア電子伝達
   系複合体の機能を低下させる。これは、エネルギー産生を
   低下させるだけでなく、電子伝達系から電子のリークを助
   長し、さらなる活性酸素増加を促す。